ミラノにて想う、「ZARAの躍進に死角はないのか?「ベネトン」の再生は可能なのか?
イタリア旅行編、とぎれとぎれに書いて参りましたが、今回が最終回です。
今日は、ミラノで大手SPA企業のショップ、特に「ZARA」「ベネトン」及び「H&M」を見て感じたことについて書いてみたい。
上記2店舗のうち、「ZARA」と「H&M」は、リサーチに赴いた日が土曜日だったのでそれこそバーゲンセール並みの混雑振りを呈しており、そこそこ人は入ってはいるものの、往時の勢いは見る影もない「ベネトン」とは対照的な様相を見せていた。
特に、ターゲットをティーンからヤングに絞り、カジュアル中心の品揃えになっている「H&M」については、ショップスタッフが常時店頭への品出しばかりを行っていないと欠品だらけになってお店が回っていかないような状況になっており、店舗数が2店舗に増えたとはいえ、土曜日だからということもあろうが、バジェット市場を独占しすぎてかなりオペレーション上の限界状態に近づいているのかな、という感すら受けた。
(上記の問題、「g.u.」でも見られるのではないかと気になっている。一時期の「オゾック」でもストックから売り場に商品を運ぶ選任のスタッフがフル回転する姿が見られたが、この品出し人員の人件費というコストも実はかなり大きいのである)。
それに対し、「ZARA」の方が、入店客数自体は「H&M」よりも多かったのだが、そこまでの状況には陥っていないように見えた。ミラノの「ZARA」は、レディス&キッズ館とメンズ館が、隣同士に隣接して立っており、レディス&キッズ館は、B1キッズ、1階レディス、2階レディスカジュアル、3階「TRF」(「ZARA」のサブブランドで、ナチュナルテイストのカジュアル)、メンズ館では、1階が「モード」、2階が「クラシコ」、3階が「スポーツ」という構成になっている。
つまりは、レディス、メンズ共、ショップの顔となる1階の部分に、エレガンス系、モード系の大人をターゲットにした商品を揃えており、しかも、SKU数が特にレディスの方は多い。
商品をチェックしていると、やはり店頭に欠品は数多く出ていて商品出し(もしくは生産)が間に合っていないかとも思えるのだが、商品バリエーションが豊富なので他の代替品を買って頂くことでクレームは免れることが出来る程度にはなっているように見えた。
試着の列も長く、ボトムスなんかは買うのを諦めているお客様もかなりいらっしゃるかと拝察できるのだが、旬のコレクショントレンドを反映したお洒落な重衣料という、普通なら高くて当たり前の商品が、同業他社に比べ相当に安い、という魅力があまりにも大きいので、文句を言わせない、というところなのだろう。
「ZARA」の強みは、やはり、どう見てもレディスの1階、なんですよね。カジュアルに関してはイタリアにも「ディーゼル」があるし、日本にもまだまだベタではあるが「ユニクロ」がある。「アバークローンビー&フィッチ」などアメリカ系のSPAで次々と有力なブランドなりショップが登場してくるけれど、エレガンスゾーン、というのは、実は世界的に見ても空白なのだ。
ここをやるためには、重衣料の生産背景を押さえる必要があるし、それと、パリ・コレやミラノ・コレなどの情報を企画に落としこむための相当数の企画の人員が必要だ。グローバルに展開している店舗への物流も確立する必要がある。その仕組みを他社に先駆けて、そして徹底(空輸までするそうですからね)して作り上げたところが、インディテックス社の凄さだろう。
では、現在の「ZARA」に、果たして死角はないのか?
まず、これだけの商品を「多品種大量」に生産する、ということは、当然、1点1点の商品の企画が外れた際のリスクというのが格段に大きくなるだろう。
だが、「ZARA」の場合は、「売り切り御免」的に動いている部分が大きく、売れ筋を深追いするよりは、長短はあるもののどの商品も足は早めに切って次の企画を投入しているように見えるので、「スキニージーンズが外れたらどうしよう」といったような深刻な心配はないのではなかろうか。
そこまで高くない数多くの山の集積が、結果として売り上げの大きな山を形成しているように思う。
とにかく、店頭にはありとあらゆるコレクショントレンドのエッセンスがこれでもかこれでもか、といった感じで出尽くしていますからね。日本のアパレルさんみたいに、「どのテイストでうちは行こうか」という風にはあまり悩んでいないのではないか。あれだけの店舗面積、メガショップだから取れる戦略なのだが、全部やっておけばとにかく外れはないのだから、非常に安定的なビジネスモデルだ。
しかし、私が過去何年か見た印象では、少なくともミラノでは、「ZARA」にはメンズが弱い、という弱点があるように思う。
日本でも「ZARA」には黒い服が多い、という印象を未だに持っているお客様が多いようだが、メンズに関しては現在もその点は変わっていないんですよね。
いわゆる「モード系」なのだが、それがそもそも、イタリアの男性の主流派には受け入れられにくいように見えるのだ。
そう、メンズの業界の場合、もちろんトレンドに左右されて市場が動く部分もあるのだが、トレンドよりスタイル、というお客様の方が圧倒的に多いのである。
「ZARA」の強みと裏腹の弱みというのが、メンズを見ているとレディスとは対照的に噴出しているようなところがあって、例えば、パターンも胸板が厚いイタリアの男性にはあまり合わないようなペタンとした感じだし(レディスのパターンもイマイチのものもあるが、多少悪くてもトレンドにつられて皆買っているのだ)、ニットに至っては、素材に難があるものがちょくちょく見られる。
例えば、棚の上に大きく打ち出されていた39ユーロのメリノウールが、全然売れていなかった。中年の男性が、そっと商品を触って、それから「駄目だこりゃ」という感じで離れて行っていたが、さくらも触るや否や、「あかん、これは」と感じました。
そういう「外れ」の数もたぶんレディスより多いのだろうし、在庫回転率もレディスとは恐らくかなり差があるような気がする。また、SKU数そのものが、特にカジュアルでは少ない。そもそもジーニングを核としたブランドとの勝負を避けているのだろう。
イタリアの男性は特に他国以上に目の肥えたお客様が多いと思うので、デザイン、パターン、素材の全てに対し要求度が高いのだと思う。
恐らく、「ZARA」の社内においても、メンズよりはレディスの方に優秀な人材は多数配置されているのだろうが、メンズに関してはまだまだ改善の余地はあるように思いました。
よく言われることだが、プロセスイノベーションとプロダクトイノベーション、というのがあって、SPA(製造小売業)のビジネスモデルというのは、プロセスイノベーションで成功している典型的な例なのである。
そこがうまく言ったら、今度は、価格でごまかさず商品そのもののレベルを本質的に上げていくプロダクトイノベーションを進めていかないと、この間からの「ファッション2.0」を巡る議論じゃないけれど、「グローバルSPAは安かろう悪かろうを売っているのか」ということになってしまう。
「安くてトレンディ」ということだけでなく、「安くてトレンディで、しかもそこそこ素材やパターンがいい」という風にすると、コストが上がってくるだろうが、出来れば「ZARA」さんには世界の王者としてその部分ももう少しレベルアップしてもらえたらな、と思います。
最後に、「ベネトン」に関してだが、イタリアで思ったのは30分くらい店内に居たんですがとにかく日本人が一人も入店してこないな、ということ。海外ではまだそうでもないようなんだけど、特に日本での人気の凋落が著しいのではないか。
日本人はファッションに関しては非常に敏感ですからね。競合も多いし、正直さくらも、日本でのベネトン再生は、かなり難しいんじゃないかという気がしております。
但し、ミラノにはまだ根強いファンがいるように思ったし、ボローニャにもFCらしき店舗が数店舗存在した。ヨーロッパは元々日本と違ってそんなに百貨店が多くなく、個店型の専門店が多い地域だ。
そういう専門店さんが、大手や中堅のSPAに押されて苦悩する姿は日本と同様なのだが、その中で意欲のある方と組んで残存者利潤を共に追求していく、というビジネスモデルでは、日本でも「スペッチオ」さんなんかがそれで伸ばしてきているし、成り立ち得ないことはないとは思うのだ(但し、超大手のポジションはそれではキープできないと思うけど)。
その際のポイントとなるのは、MDの内容の変更だろう。
まず、同社は、「ニット屋」に立ち返るべきだと私は思う。競争力のないドレスの重衣料から撤退し、横編みのニット及びカットソー、布帛はカジュアルのみに絞り込む。
そして、FCの専門店が、ニットの部分のみをカセットで抽出して小型店を形成できるような組み立てにしたMDを組むのだ。
ミラノで久々にベネトンを見たのだが、同社の商品、カットソーやニットに関しては、他の大型SPAやアパレルブランドに決して負けていないものが半分はある。13.9ユーロの半袖カットソーの素材の質は価格の割に質は非常に良い(但し、ロゴは不要か)と思ったし、長袖のプルオーバーのニットについては、29ユーロ、39ユーロ、99.9ユーロから120ユーロのカシミアまで取り扱われている。
問題はこのうち、一番下の価格のところの商品が、ウール100%といいながら、かさかさで粗悪さを感じさせるような素材になってしまっているところにあるように思う。ここの商品が、同社にとっては客寄せになる肝心要の部分なのに競争力が低下しているのだ。
「ZARA」のレディスにはアクリル、アンゴラ、ナイロン混で24ユーロのニットがあって、ウール100%ではないが手触りが非常に良いので非常によく売れていた。
ウール100%にこだわるのであれば、ベネトンは安い価格のゾーンに関しては中国生産を取り入れてでも素材の質を上げ、しかも「ZARA」と同等かその少し上にまで価格を下げるべきであろう。
そして、帽子、手袋、マフラーや巻物などのニットの小物のバリエーションを圧倒的に増やすこと、プルオーバーやカーディガン、ベストなどの衣料品の2割くらいはカラー展開の豊富さではなく、デザインの面白さをウリにした見せ筋に代えてはどうか。
また、自社工場という生産背景を生かし、FC店からイレギュラーサイズのお取り寄せもOKにするとか・・・。
今までの「品番数小、カラー展開は大」というパターンから、品番数も少し増やして見せ筋の部分の回転率を上げ品揃えの奥行きを感じさせるように代えてはどうかと思うのだが・・・。
先述したように、「ディーゼル」のようなデニム特化型のファッションストアがあるのだから、ニット特化型のショップがあってもおかしくはない。というか、ベネトン以降、誰もそのゾーンにはライバルはまだ参入していないから、総合化はやめて本来の同社の強みであるその部分にもう一度立ち返れば、勝機はまだあるのではないか?
その際重要なのは、FC店との間にバーチャルSPA的な、情報のスピーディーな共有化が行われる仕組みが出来ているか、ということだ。それがなく、単に商品の在庫リスクを軽減しお店の側に商品をどんどん押し込んでいく、という格好だと、再生はおぼつかないのでは?
但し、ベネトンさんは企業全体としてはファッション以外の異業種のビジネスの多角化も進んでいる、という話もあるようで、リスクヘッジをなさっておられるようだ。もはや、ファッションはワン・オブ・ゼム、ということなのかもしれず、それが本来の本業に身が入らない原因になっているのかもしれない。創業者のルチアーノ・ベネトン氏の引退で、その辺にどのような変化が見られるか、果たしてファッション分野で往時の勢いを取り戻せるのか、注目したいところである。
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きのう両国桜子が、製造したいです。
そもそもベネトンがミラノまでキープするつもりだった。
しかも両国桜子は、アンゴラに布帛に選任したいです。
投稿: BlogPetの両国桜子 | 2006年11月 4日 (土) 16時47分
今回の日記はすごく、現場からの視点でなるほど、と思いました。
まず、ZARAさんに関してなんですけど、さくらさんの指摘はそのとおりなのではないでしょうか?
きっと、ZARAさんも重々承知だと思います。
京都でZARAはかなり大きい路面店を持っていますし、結構、早いうちに出展されているはずですが、メンズをおいていません。
凄く、ビジネスライクな判断だと、僕は思いますし、どっかの店でメンズも見たのですけど、あんまり印象に残ってません。
率直に言えば、コムサのほうがええんちゃうか?って感覚があった記憶があります。
さて、ベネトンですが、僕は結構好きで、何が好きって色使いが特長があるので、上手く使えばよい方向になるのが多いと思います。
特にオレンジとか、明るいグリーンとかは。
ただ、全身をそれで固めてしまうと、80年代の匂いを感じさせるので、難しいのですけど。
そーかんがえると、ちょっと、取り残された感覚があるのかもしれませんね。
しかし、イタリア人はおじさまでも、きっちり素材を見るのですよね。
たいしたものですよね。
私もさすがに素材までじっくりとは見ません。
作家の村上春樹さんがイタリアに住んでたときに珍しく背広を作られたそうです。
その理由として、イタリアではレストランでひどい格好をしているとひどい場所(トイレの前とか)になるから、現実的問題として洋服を買ったといわれてたように思います。
かくも、イタリアがファッションの国であるのは現実的な問題があるみたいですよね。
投稿: 田中およよNo2 | 2006年11月 4日 (土) 22時35分
田中およよNo2さん、いつも有難うございます。
そうですか、京都の「ZARA」って、レディスだけなんですね。
日本はレディスですら、海外ほどのパワーはまだないので、それは賢明な判断かもしれません。
とは言え、昨年BIGIグループが離脱しザラ・ジャパンはインディテックス社の100%子会社になったようなので、そろそろ強気で攻めてくるかも?
ベネトンは80年代っぽい、というのも、ご指摘の通りだと思います。カラー展開の豊富さだけがウリということに、皆飽きているんですよね、多分。
村上春樹さんのお話は、初めて知りました。有難うございます。
確かに、イタリア人は服装は見ますよ。庶民でもかなりお洒落ですから。
投稿: 両国さくら | 2006年11月 4日 (土) 23時26分