日興テキスタイル、ミズノ、イッセイミヤケ、三者三様のものづくりへの姿勢
うちの会社主催の展示会を明後日に控えているのに、よそんちのセミナーに何人も参加していていいの?なんて言われそうなんですが、準備万端でございますので、皆様是非ご来場下さいませ(笑)。
とPRはさておき、弊社ビルのテナントさんでもある(財)ファッション産業人材育成機構・IFIビジネススクールのシンポジウム「日本のもの造り、日本のファッション創り講座」に参加してきた。
所用のため、最初と最後30分くらいずつ参加出来なかったので、ご関心のある方には業界紙各紙の報道を是非ご覧頂きたいが、今回のシンポではパネリストの三者三様のものづくりへのアプローチの独創的な手法から学ぼうという趣旨なのか、パネルディスカッションではなく、個々のプレゼンテーション及びインタビューを聞く、というスタイルになっていた。
トップバッターの日興テキスタイル(株)代表取締役社長・阪根勇氏のお話は、さくらは一昨年も聞かせて頂いていたのだが、今やマーケティング目的の2次製品のアンテナショップまで開店され、業務改革と時流に合った製品開発には益々磨きが掛かってこられたのではないか、という感を受けた。
同社の経営手法は、工業製品を製造しておられる異業種の優秀な工場さんの事例と比べると、全く違和感のない、むしろスタンダードな工場経営の手法だという気がする。
ただ、それが、わが繊維工業の世界では、稀なる成功事例、となってしまうところが非常に問題で、取引条件の改善(100%現金取引、未引取りなし)、短サイクル小ロット生産用のラインの改善、ベテランのカンに頼らない匠の技術の標準化等を進めれば、阪根社長がおっしゃっておられたように、「マイナスからゼロの状態」に行ける可能性のある同業他社さんは多いのではなかろうか。
実のところ、わが墨田区内でも、軽工業的な製造業がコンサルタントの力を借りて劇的に利益率を改善した例はございますんで。ジモッティの方でご関心のある方は弊社にお声をかけて下さい。
続いて、ミズノ株式会社総合企画室上級専任職・村田一雄氏。
村田氏のお話は、ブランディング(同社は昨年ついに、Mのマークをミズノランバードに統合、一本化された)、中国での販路拡大、そして、テクノロジーの視点からの新商品開発の3点に亘る幅広い内容だった。
特に一番最後の商品開発手法は、コレクショントレンドやストリートトレンドに依拠する通常のファッションアパレルとは全く違うもので、恐らく自動車とか家電などの業界の人間工学的な手法に近いのではないかというものだった。
3Gコンピュータのシミュレーションだけで試作を繰り返さなくてもかなりの精度のものが出来てしまうといったお話や、「20年後のスポーツ用品はどうなっているか」というテーマで、先に設計ありきではなく思想・発想を基にしたデザインのコンペを行っているとか。
バット製作の2人の技を継承するため、彼らが木材を地面に叩いて音を聞いて木の良し悪しを判断しているその音を録音し、分析を行っているというお話は、日興テキスタイルさんの、匠の技術の標準化のくだりに相通じるもののように思った。
最後は、(株)イッセイミヤケ取締役、多摩美術大学美術学部生産デザイン学科テキスタイル教授・皆川魔鬼子さん。IFIの尾原学長によるインタビュー形式で進められた。
プレゼンの最初と最後には、皆川さんが手掛けておられるブランド「HaaT」と、西川リビングとの共同開発「mayu+」の商品画像のご紹介があったのだが、それこそ1点1点の原料や組成、加工法、産地について、非常に丁寧な説明があり、皆川さんのものづくりへの思いの深さを痛切に感じさせられた。
皆川さんの語録、さすがは国際的にもトップレベルにあるデザイナーズブランドのテキスタイルデザイナーさんだけあって、非常に鋭いご指摘の連発だった。今日ご参加された方は、本当にラッキーだったのではないかと思います。
ファッション業界の方だけでなく、他のジャンルでデザインに携わっておられる方にもとても参考になるお話だったと思うので、私の心に留まった点を箇条書きにしてご紹介しておきますね。
・よいものづくりをしようと思ったら、原料が重要なのではないか?
・「HaaT」では、インドの刺し子を定番化している。インドの刺し子は、古くなった素材を重ねて縫って捨てないでまた着るところが良い。
・素材の開発には時間がかなるので、本当に良い素材が出来たなと思ったら、柄や色使いを変えて、何シーズンも続けて使っていく。
・若い人達は、アイデアを沢山持っている。ただ、スキルや経験がないからそれを具体化出来ないだけで、良い才能に対しては大人がしっかり研修してあげなければ。
・アタッチメントではなく、繊維機械の本体そのものにおいて革新的な製品が開発されてこないと、デザイン(筆者注:織物設計のことか?)だけで新しい良い商品を作り出すのは難しい。
・(イッセイミヤケでは何故日本でしか出来ないような商品の開発が可能なのか?という問いに対して)、若いときからどんどん商品開発をやらせてもらえるということと、他と違うものを作ることを要求されているからです。
・(社内でどうやって感性を共有しているか、という問いに対して)・・・感性の共有を教えるよりは、感性を持った人を特化させることだと思います。正直申し上げて、20歳でも感性のある方もいれば、経験を積んでも感覚が違う方もおられます。感性は、教育ではないという気がします。但し、コミュニケーションをよくとり、共有は出来なくても、全体の平均を底上げするということは可能だと思います。
一番最後の話は、非常にシビアな内容なのだが、ミズノさんの話の中に度々登場していた一流のアスリート達と同じで、一流のデザイナー、クリエーターというのはtalented=神に選ばれた存在なのではないか、という趣旨のことをおっしゃっておられたのではないかという気がした。
イッセイミヤケさんのものづくりも、狭義のファッショントレンドにのみ依拠せず、スタイルを持ったブランドや、プロダクトデザイン、工業デザインの目線での素材開発、商品開発を行っているという点では、日興テキスタイルさんやミズノさんとも底流を同じくするという風にも解釈できるのではなかろうか。
3者共、原料を選別する能力、生産管理、人間工学、繊維機械の開発力の活用等、トヨタ、ホンダなどと同様にある意味では世界一強い日本の「工業」のノウハウを駆使しながら、それを消費者の目線に合った商品(テキスタイル、2次製品)に落とし込んでおられる点、そして、これは繊維ファッション産業ならではの特徴だとも思うが、自然と人工(天然繊維と化学繊維)が共存・調和しているところが素晴らしいのではないかという気がした。
三者三様、という形に見えた今回のパネリストは、実は極めて「日本的」な、強みを有する企業であるという点で共通していたのである。
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