「適正価格」のリサーチを怠るな
何か、私のような者が申し上げるのも非常におこがましい話なのだが、最近展示会を見て回っていて、新しくデビューしようとなさっておられるブランドさん達の価格設定を見て、唖然とすることが多い。
何だってどれもこれも、バカ高いプライスなんでしょうね。それを見た瞬間に、掛け率やミニマムロットなど次の話を伺う気が失せてしまう。
全く以って、世間知らずというか、私は(うちの会社は)ショップ店頭のリサーチを全くしていませんよ、ということをバイヤーさんに対して露呈していることになってしまうのではなかろうか。
いわゆるMDブランドさんでは、このようなことは全くありえない。この春夏は、景気動向をにらみながら価格を下げているブランドさんが多い。某バッグブランドさんのように、ファーストブランドの価格は上げそれをマスコミ等にアピールしていても、マス向けのブランドの方は価格を下げて客数を取る戦略と両面でバランスを取っているところもあり、どの企業さんも価格戦略は非常に緻密だ。
どうも、ハイブランドを目指しておられる一部のクリエーターさんや製造メーカーさんの中に、勘違いがあるようなんですよね。
確かに、ファッション商品で富裕層を相手にしているものというのは、価格弾力性が低い(価格を上げたからといってそれに比例する形で売り上げが下がるとは限らない)商品だ。バカ高いシャネルやヴェレンチノのドレス類は、10万20万の差があっても売れるものは売れていく。
但し、そうは言えども、ブランド全体がそれなりの売上額を計上するようになれば景気動向の影響は大きくなる。ハイブランド同士の競合もあるので、商品政策の失敗が売り上げに響くということも存在する。
価格の高い商品を、私はばっくりいって3つのグループに分けて考えている。1つは、富裕層向けの、ビジネスや社交シーンに必須なベーシックアイテム(メンズのビジネスウェアやスーツ、レディスでも「マックスマーラ」や「アクリス」、「アルマーニ」系ブランドのスーツや、「ダナ・キャラン」のドレスなど)、2番目は、富裕層向けの、カジュアルも含めたファッション性の強い商品、3番目が、ヤングのファッションフリークがなけなしのお小遣いを貯めて購入する商品だ。
そのうち、第3のゾーンの市場は、今の日本では急速に縮小してきているように私は見ている。ファッション業界にいると、業界人の友人ばかりを見ているのでそのことがわかりづらくなってしまうが、一般の方々、特にレディスについては、こづかいの減少と、プライスは値ごろでも感度はそこそこ高いブランドが数多く登場しているので、そういうブランドさえあればファッションは十二分に楽しめる構造になってしまっている。
メンズでも、最近の『メンズ・ノンノ』などのストリートスナップを見ればよくわかるが、古着とファストファッション系ブランド、ポイントさん系のブランドなどをうまく組み合わせる流れは定着している。今年「H&M」が上陸、話題になるような広告プロモーションを仕掛ければ益々その流れに拍車がかかるだろう。
そういう世の中の流れを踏まえた上で、自分の作りたいものをどこに向けて発信するか、ということをもっとよく考える必要があるのではなかろうか。
高感度高価格帯のブランドが狙うべき販路は、当然、都心・地方のセレクトショップ、百貨店、プラス、最近では一部の通販さん、ということになってくるので、実現するか否かは別として、「うちのブランドはこのブランドのこのラック(この棚)に置いてもらいたい」という目標がはっきりするまで、売り場を見にいく必要があるのではなかろうか。
また、日本では雑誌の影響力が極めて強いので、「私のブランドはこの雑誌とこの雑誌とこの雑誌の読者がメインターゲット」ということも明確に言えるくらいまで、雑誌をいろいろ見て研究することも大切だろう。
よく、弊社の事業の指導をして下さっているS先生などの先生方がおっしゃっておられることだが、「雑誌や売り場を見る」ということを、同業他社のデザインを真似するためのリサーチと勘違いなさっておられる方がおられるが、そうではない。販路開拓のための研究を行うということだ。
そして、特に売り場の方では、現状のお友達ブランドにどういうものがあるか、それらの価格帯を調べる。一般的に行って、インポートのクリエーター系ブランドよりも、ドメスティックなものの方が安く、ある程度量が出るもの、実需期にも追加が効くといった点が評価されて売り場に入っていると思われるものも多い。
価格帯も売り場で調べるべきだろうが、最近はインターネットという便利なものも登場しているので、ネット上だけでもかなりのリサーチが出来てしまうだろう。
売り場を見て歩くうちに、各セレクトショップさんのビジネスへのスタンスもある程度理解できてしまう筈だ。アパレル発のセレクトさんは、オリジナルブランドの企画開発が非常に上手い。フェミニンなテイストがウリのお店、フレンチカジュアルがベースになっているお店、元々はメンズのイタリアントラッドがベースになっていて、レディスにもやや硬い雰囲気を残しているお店・・・。
VMDが非常に汚いお店とそうでないお店、バイヤーや本部の人員が頻繁に店頭を訪れているお店とそうでないお店(新宿ルミネさんを見るとよくわかります)。よくよく見ると、プライスの高い商品は雑誌掲載の多いブランドばかりだなぁ、というお店と、無名の良品でも非常に高いものを仕入れ、しかも売りこなす力のあるお店。コート、スーツ、シャツ、ニット、バッグ、アクセサリーなどの単品で本当の上質な素材と仕立てを理解しており、きちんと説明をしてくれるお店。
百貨店さんの場合は、残念ながら、自前でものを仕入れて売る力のあるお店と、そうでないお店の格差が開いてきている、ということもわかるだろう。だが、最初に述べた高感度高価格帯の3つのグループのうち、第1のビジネスユースに関しては、非常に強いという強みもあるし、最近はクリエーターズブランドの集積を作っておられるところも出てきており、全てを悪いと否定することは出来ないと私は思う。
それぞれのお店に、一長一短があると思うだろうが、自分がクリエーターとしてファクトリーとして、ある狭い分野に限ってでもいいから非常に深く専門的なこだわりがあり、それに基づいた商品企画とものづくりが出来ているとしたら、当然、それを理解してくれるお店に向かって情報発信したい、売りたい、ということになってくると思う。
そして、ここからがファクトリーブランドとクリエーターズブランドで方法論が分かれてくるが、ファクトリーブランドの場合は出来れば先に上代設定をしてからコストコントロールを行った上で適正な利益が取れる素材、製法を選んでいくべきだろう。
クリエーターズブランドの場合も、自分のクリエーションの力を見せるための見せ筋商品とは別に、比較的買い易い価格帯の商品で数が出やすいものを半分から3分の1程度は用意しておくべきではないか。
具体的なアイテムでいうと、プリントだけで差別化できるTシャツ、横編みニット、ミニスカートやパンツ、デニム、ジャージのワンピース、ストールやアクセサリー関連などである。
また、上代設定をする際に、サンプル工賃と量産用の工賃は違う筈なので、それを見込んだ上で原価計算するとか。展示会で数がつくかどうかわからないものについては、「参考出展」という表示にしておいて様子を見るというやり方もあるし、あまりにも高くなりそうなものについては、ショップと組んでオーダー会を行って完全受注生産とするやり方もある。
特に、第3のグループ、ヤングのファッションフリークを狙うのならばこういうことは重要だろう。少なくとも、自分の友人達が義理でさえ買えないような価格帯の商品ばかり並べてどうするの?という感じである。
もっともっと、そのブランドが狙っているゾーン、得意とするアイテムごとにこと細かく論じることが出来るんですが、とにかく、展示会は「売ってなんぼ」の場なんで、そのための準備をきっちり行ってから出られた方が良いのでは?単にイメージの訴求だけを行いたいのなら、ファッションではなく、アートの世界へ行かれた方がもっともっと自由な活動が出来て面白いのではないか、と思った次第である。
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