H&Mの日本進出で、誰が一番ワリを食うのか?
いやはや、ここに来てH&Mさんのことを取り上げる雑誌がやたらめったら増えてきましたね!ある程度予想はしていたのだが、こう猫も杓子もという感じになると、正直ちょっと食傷気味だったり致します。
ただ、そういう雑誌の取り上げ方をメンズ、レディスを問わず見ていてちょっと感じているのは、以前イタリアのミラノやボローニャでH&Mのお店を観察していた時に受けた商品の印象とは相当違った見え方というか、見せ方をしているな、ということ。
イタリアでは、H&Mは完全にピュアヤングとヤングのお店で、アダルトな客層はZARAという風に、かなり棲み分けされているな、というイメージを持っていたのだが、そういう「男の子女の子向け」風の元気系ボーイズ(&ガーリッシュ)カジュアルの匂いが、プロモーションのビジュアルからは完全に払拭されている。
今日買って帰った『FUDGE』さんの巻頭特集なんかもモロにそうだったけど、今の時点での日本での露出の仕方は、「旬なモード」「価格が安い(これは小さく、だけど必ず表示)」の2点に絞った訴求になっていると思うのだ。
これは、ある意味では至極当然のことで、まずは1店舗2店舗しかない状況では、情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプターを集客する必要があるのだが、日本の場合はピュアヤングやヤングのマーケットに関してはレディスだけを例に挙げても元々そこそこ価格の安いギャル系や駅ビル系のブランド、通販系ブランド、古着などがワンサカ存在している激戦区だ。
元々オバサン向けの専門店と、一部のチェーン専門店、ごくごく一部の百貨店くらいしか存在しなかった欧州のマーケットとは違って、ヤング天国、「カワイイ」服がワンサカ揃っている日本で、同じ土俵で戦うのは無理だから、沢山の商品の中から玄人っぽく見えるものを抜き出して雑誌に掲載なさっておられるのだろう。
これは本当にプロの成せる技、プレス業務を担っておられるらしいステディ・スタディさんという企業さんも、雑誌社さんの側も素晴らしいと思うし、半分あきれながらも(笑)、敬意を表しております。
さて、ここからが今日の本題。
最近たまに業界の方から、「両国さんH&Mが来たら一番ワリを食うブランドとかショップってどこだと思います?」と聞かれたりする。
基本的に、小売業は地域産業なので、1店舗や2店舗しかないうちは、まずは同一商圏内のお店さん達が直接影響を受けるということになるだろうが、
その後、1,000平米、1,500平米クラスの店舗が10店舗、20店舗といった塊になってくると、当然「企業対企業」という問題も出てくるだろう。
私は、開店後半年や1年程度の間、つまり前述した情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプター中心の客層中心に売れていっている時期を過ぎ、三角形の半分から下の「普通の人達」がH&Mの存在に気づいた頃が、本当の勝負になってくるのではないかと思っている。
少し前に、弊社で非常にお世話になっているS先生が、「さくらさん、H&Mは日本では絶対売れるよ。上海の売れ方を見ていればわかる」と断言しておられた。私は残念ながら最近上海とはご無沙汰してしまっているので(嗚呼、もっと海外に出て行かないと、今後は日本でのビジネス予測も難しくなってきますね・・・)責任を持って断言は出来ないが、恐らくS先生がおっしゃっておられることは事実になるのではないかという気がしている。
話は急に飛躍するが、ゴールデンウィークに御殿場プレミアム・アウトレットに行って、ほとんどの人が手に紙袋を持って帰宅の途についている姿を見てから、人が商業施設やお店に行ってから「買う理由」「買わない理由」について真剣に考えるようになった。
アウトレットの場合、「大変な思いをして遠くまで来た」から、「大したもんもなかったけどそれなりには安くなっているし買うか」となる訳である。
セレクトショップさんで異常にとんがった、しかも馬鹿高いインポートの商品ばかりが揃っていると、まず大半の人が店がまえを見た段階で入店もしないから来店客数が低い。たまに入店してくださったと思ったら、次には値札を見て逃げていってしまう。
ただ、そういうお店さんであっても、そういう個性的な服が好きで、着こなす力があって、さらには支払い能力があるお客様を一定数掴んでいれば、そういう固定客中心に商売を回すことが出来る。
そう、ここまで書いた段階で、賢明な読者の方は既にお気づきかと思うが、「買う理由」「買わない理由」と先程書いたが、厳密にいうともう1つ「買える理由」「買えない理由」というのがある。
これはいたってシンプルで、かつ、どうしようもない原因によるものだが、「お金がある」人は高いものが買えるし、「お金がない」人はいつでも節約のことばかり考えていなければならないのだ。
今の日本の状況というのは、残念ながら「買えない理由」がある方が大多数で、「買える理由」のある富裕層は1,000万人強・・・という風になりつつあるのではないかと思う。
ということは、である。商品価格という、「買う」「買わない」ではなく「買える」「買えない」という部分でのせめぎあいのハードルになっている部分を一気に下げてあげると、不思議なもので、「ちょっと気に入らないところもあるけれど、これ安いから、やっぱり買っとこうか」という風になる可能性が、一気に膨らむんですよね!
H&Mさんのターゲットは、基本は男女共に日本では恐らく28歳から40歳前後のコンテンポラリー層だろうと思っているんですが、もし万一、それよりも一世代、二世代上のミセスで、今百貨店さんで「自由区」とか「エアパペル」みたいなブランドを習慣的に購入なさっておられる層まで取り込んでいかれたとしたら、その衝撃度は凄まじいだろうな、という気がしますね。
いわゆる「都会のミセス」層である。田舎のおばちゃん達は、H&Mさんではなくしまむらさんのベタな感じが好きだから対象外だと思うが。
ただ、実際のところ、H&Mさんの商品はヨーロッパナイズされてはいるものの基本はピュアヤングからヤング向けのものなので、やっぱりとんがりすぎていて都会のミセスといえども普通の客層にはちょっと合わない部分が多い・・・ということに、実際はなってしまうと思うんですけどね。
嗚呼、ここまで書いてきて思い出すのは、シンガポールで本当に感じたあのこと。久々にマークス・アンド・スペンサーを見て、グローバルに見てもアダルトメンズ&ミセス向けの値ごろな価格帯の衣料品専門店さんが存在しなくてお客様はみんな困っておられるんだな、ということ。
なので、私は前々から思っているんですが、ワールドさんあたりが新規事業として感度軸を落としてミセス向けのグローバルSPAを国際的に展開したら、かなり芽があるんじゃないかなと。
こういう事業は、日本発ではなく、アジアに人材が育ってくれば実現可能なのではないかという気がします。
ユニクロさんについては、ベーシック商品中心の組み立てなので、柳井社長ご自身がおっしゃっておられる通りH&Mさんの直接の影響は少ないのではないか、という気がする。
エッ、さくらさん、結局誰が一番ワリを食うのって?現状では、多様なブランドが少しずつ影響を受ける、ということになるのだろうが、同社の進出により消費者の価格意識が益々高まり、百貨店さんのように高めの価格帯を打ち出している業態程、きちんと価値に見合った価格になっているかが一段と厳しく精査されるようになってくるのではないか、と思いますね。
« アンテプリマのコルソコモ店 | トップページ | ITMA ASIA+CITME 2008のニュースレター »
この記事へのコメントは終了しました。
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: H&Mの日本進出で、誰が一番ワリを食うのか?:
» エディーバウアー(Eddie Bauer)について [エディーバウアー山野を行く!]
1899年、アメリカのシアトル沖合いにあるオルカス島で生まれ、島の自然に囲まれて育った人一倍好奇心の強い少年は、その自然の中で遊びながら、いつも「どうしたらもっと楽しく遊べるだろうか?」ということを考え続け、様々な工夫をすることが日常の楽しみでした。自分の考えたことを実現するのに既存のモノが間に合わなければ、自分自身でそれを創り出し、自分自身でそれを試してみる。そして、納得がいくまで工... [続きを読む]
コメント