先日、マサキさんのコメントで知った『コーチ 進化するブランド』(小学館、定価1,600円+税)をやっと読み終えました。
この本のあとがきを見ても想像がつくのだが、念のためにと思ってアメリカ版のamazon.comで検索をかけてみたが、同様の書籍はアメリカでは発売はされていないようだった。この本は、COACH INC.及びコーチ・ジャパン(株)の監修・協力による、日本のコーチファンのためだけのオリジナル本のようである。
マサキさんにこの本のことを教えて頂いて、本当に良かったです。非常に勉強になりました。この本は、ブランドビジネスやSPA企業の方だけでなく、製造メーカーや卸型のアパレル、クリエーターの方々など、ファッション業界のあらゆる業種業態の方に是非お勧めしたい本ですね。
社内でこの本を使って、ディスカッションされてもよいのではないかと思いました。
マーケティングを少しでも勉強されたことがある方は、いわゆる「マーケティングの4P」という言葉を知っておられるのではないかと思う。
「マーケティングの4P」とは、「製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)」のことをさすが、
通常、小さな企画会社もしくは製造メーカーがオリジナルブランドを始めたばかりの頃は、「いい製品(Product)を適正な価格(Price)で出す」ということから始められるのではないかと思う。
コーチの場合も全く同じで、1941年の創業から間もなくは、そういう企業だった。
その後、商品力によって一定の市場シェアが取れると、今度はより大きな売り上げを得るためプロモーション(Promotion)ということを考えるようになり、さらには流通(Place)のコントロール(卸→直営)にも着手するようになってくる。
こういった、ファッションブランドが成長する際の歴史的なプロセスが、非常に綺麗に描かれていて、無駄な動きがない。まさに、ビジネススクールの教科書的な事例だという気がする。
それプラス、これは元三陽商会で現在は文化ファッション大学院大学やIFFビジネススクールで教鞭を取っておられる(有)長谷川企画代表の長谷川功氏に教わったことだが、現代のブランドビジネスにとっては、上記の「マーケティングの4P」に加えて、「店舗」と「販売員」の問題も非常に重要なポイントになってくる。
1981年、マジソンスクエアへの初の路面店開設が、「流通(Place)」を意識した戦略だったとしたら、2000年の同店のリニューアルは、「流通(Place)」プラス「プロモーション((Promotion)」の拠点にスケールアップするターニングポイントだったように思える。
もう1点の販売員の問題については、制服やお声掛けの仕方など、わずかしか触れられていない。この点は非常に残念に思うが、ひょっとしたら日本市場においては競合のルイ・ヴィトンの販売員との比較において、コーチ・ジャパン内では「自社はまだまだ劣位にある」という認識を持っているので、敢えてこの辺の問題には詳述しなかったのかもしれない(ちょっと意地悪な見方でスミマセン)。
次に、米国での歴史の後に記されている、日本進出の歴史(及び輝かしい成功!)。この部分が、本書のクライマックスだろうが、ここから学び取れるのは、成功の秘訣は、「Who is a customer?」この問いを、アメリカ同様日本市場においても何度も何度も反芻し、アメリカと違う部分は修正して日本市場に合わせる、ということを徹底させてきたからだということだ。
通勤ラッシュが激しい日本ではマチの薄いバッグを発売したり、広告プロモーションの内容も変えるなどの工夫だ(現在も日米のコーチのサイトのトップページのFlashのコンテンツは違うものになっております)。
この成功の陰には、当初日本にコーチを持ち込んだ住友商事さんの影の功績が大きいのではないかと私は推察しているが、その時期を過ぎ、2005年より米国の100%子会社に。そして、同社は日本での成功を中国に広げようとしている、というのが、現在の状況である。
3番目に学ぶべき点は、品質管理についての同社の考え方である。COACH INC.は2002年までに生産は100%海外にアウトシーシング、現在は14か国70工場で生産しているとの記述があったが、「イタリアと中国で同じバッグを作っていても、どちらがイタリア製でどちらが中国製か、できあがった製品を見てもまったく区別がつかない」(同書P102より引用)とある。
こういう考え方に対して、製造業に携わっておられる方の中には「承服できない」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、お客様、消費者の立場に立ったとき「日本製でも品質が悪いものはダメ」という冷徹な事実を、一歩引いたところから冷静に見つめる必要があると思う。
その上で、どうやって「メイド・イン・ジャパン」、自社のものづくりの良さをビジネスに生かすか、自分本位ではなく顧客本位の目線で考えることが、「ジャパンブランド」「自社オリジナルブランド」構築の第一歩になると私は思うのだ(こういう問題意識を持って、うちの会社主催でパネルディスカッションを開催します!近々募集を開始しますので、楽しみにお待ちください)。
最後に、この本には「ミグジュアリー」という言葉は登場しなかったが、コーチはアメリカ発の企業で、20世紀半ばに登場したまだ若いブランドである。
ヨーロッパに行けば、同社が割り込む余地はないほど数限りないバッグブランドがひしめいており、特に「ルイ・ヴィトン」「グッチ」「プラダ」など、富裕層を対象にした高感度高価格帯の「ラグジュアリーブランド」の勢力が強大だ。
コーチのマーケティング戦略の優れたところは、これらと正面から戦うことはせず、少し背伸びすれば手の届く価格のブランドを提供したところにある。
そのバックボーンに、階級差がはっきりしているヨーロッパと違って、男女平等で、働く女性=仕事のためにお洒落で機能的なバッグを持ち運ぶ必要のある女性が多い国・アメリカのカルチャーが息づいていることは、間違いないだろう。
そういう風に考えると、単に「ヴィトンに代わるブランド」が欲しいから飛びついた日本以上に、男女平等の国・中国でコーチが新たなる成功を修める可能性は、極めて高いように私は予感する。
広告プロモーションなんかも、日本よりはアメリカに近いイメージ発信になってくるかもしれない。コーチのアジア戦略の今後が、非常に楽しみであります。
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