お客様の期待値を裏切るジーンズ安売り競争
いやはや、先週11月7日(土)のGAP原宿駅前店のオープンに際しての、ジーンズ無料引換券の配布のニュースを見て思ったんですが、
ジーンズ安売り競争も、もう行き着くところまで行っちゃったかなと(小島健輔先生も同様のことをブログに書いておられましたね。何せ、もう3ケタの上代も通り越して、ゼロ円になってしまいましたので)。
常々思うんですが、「よりよいものを安く」といういい意味での企業間競争は、お客様、消費者のためになるんですが、
ユニクロさんジーユーさんのような、商品開発、素材開発と調達、生産の仕組みを根本から見直して原価構造を変革することなしに、
「ジーユーざんが安くしたから、うちも負けないようにしよう」という対抗策は、一時的なものでしかないですよね。原価割れしたものをずっと売り続けていたら、売れば売る程赤字になってしまいますので。
更に興ざめしたのは、ジーユーさんの品質表示誤表示問題。昨年の秋販売した商品の問題で、今年になってからのことではなかったんですが、1品番を非常に大量に販売する仕組みであればあるほど、「うっかり間違えていました」では済まされない大きな責任があるように思いました。
最近のジーンズを巡る一連の動きを見ていて感じるのは、「100年に1度の大不況」の影響で、わが業界の皆様方は、残念ながら商売人としてやるべきではないこと、誤った方向に向かって皆でこぞって突進して行っているような気がしてなりません。
最近、ネット通販やケータイ通販の業界の皆様から、私は非常に多くのことを教えて頂いているんですが、この新しいマーケットでの成功者の皆様は、よく、「期待値のコントロール」という言葉を使われます。
「期待値のコントロール」というのは、商品をじかに手に取ってみることが出来ず、不安の多いネットやケータイでの購買だからこそ、購入後の御礼メールや、実際に手元に商品が届いて、梱包を見て、包みを解いて、中身の商品や同梱されているお手紙、プレゼントを見て・・・という状況になった時に、想像していた以上の内容だった場合、強い満足感を感じる、という人間の心理を理解した上で、ページ設計、品揃えやサービス、フルフィルメントなどの構築を行う、というものです。
これ、たぶんリアルのビジネスでも、同じことだと思うんですよね。
美味しいお菓子のお店がオープンして、長蛇の行列が出来ているときに、そのお店の一番の名物を並んでおられる方に1個ずつ配る・・・これは、○だと思います。何故なら、食品は食べればすぐになくなるものですし、試食することによって、「こんなに美味しいのね。想像以上だわ。やっぱりこれも買っとこう」=期待値が高まる、欲望を喚起することにつながるからです。
それに対し、ジーンズが無料で配布されて、自宅に持ち帰ってそれを履いてみて「これ、シルエットが俺にぴったりなんだよね」と思ったとしても、2本目をそのお店に行って買うでしょうか?
また、ジーンズはたまたまその人にぴったりだったとしても、Tシャツとか、ネルシャツとか、他のアイテムのサイズがぴったりとも限りませんし、趣味に合っているとも限りません。
「その日お買い上げ下さった方への感謝の気持ち」でもなく、「商圏内のあまねく広い人に向かっての感謝の気持ち」の表現?
もしくは、単なる客寄せ???
何にしても、「商品が大切に扱われていない。ものを大切にする心がない」という印象にしかならないように私は思ったんですよね。
アパレルでは、食品スーパーさんとは違って、スーパーで卵を戦略商品として激安にしておいてお客様を集客し他のものをお買い上げ頂くという手法も通用しないと思うんですよ。仮に、ジーンズだけが激安で、他の商品が割高であれば、激安の価格帯を求めるお客様はそれしかお買い上げ下さらない、そういう難しさがあります。「フォーエバー21」とか、「しまむら」とか、「H&M」とか、店内の全ての商品が格安ならば、1人で5点も6点もレジに持ち込み、という風になりますが。
ファッションって、単なる物的価値以上の、精神的価値を売るものだと思うんですが。中小企業は、そこでないと絶対に戦えないですよ。
確かに、ネット通販こそ、リアル以上に価格競争が熾烈に行われている部分もありますが、その一方で、不況下でも高い客単価をキープし、お客様の期待を上回る商品を販売なさってまだまだ売り上げを伸長していっておられる企業さんが幾つもあります。
リアルの世紀末的な投げ売りや、対話もない自動販売機的な販売手法に辟易しているお客様は、きちんとこだわりや世界観が表現されているwebの世界に益々逃げ込んで、疲れる町中からは益々足が遠のくように思うんですが・・・。
GAPさんは、こちらの話題の方が、商品もイケてますし、私は好きだなぁ。皆さんどう思われますか?
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はじめまして。
非常に気持ちが入っている記事だったのでコメントさせていただきます。
この業界を考えるひとりとしても、非常に衝撃的なニュースでした。
無料引き替え、までいってしまうともう単に在庫を処分したかっただけなのでは・・・と考えてしまいました。確かに、それによって店舗に足を運ぼうとするお客様はいらっしゃると思いますが、それを着ていても別に楽しい気分にはなりそうにありません。それならジーンズとセットで何%offとかの方が、まだ「買った!」という満足感につながりそうなのに・・・。
(本来のファッションの楽しさって何なんだろう・・・と考えるきっかけになったニュースでした)
投稿: trerstore | 2009年11月11日 (水) 12時39分
trerstoreさま、はじめまして!
コメントありがとうございました。
在庫処分、そう思うと、本当に心が暗くなりますよね。
trestore様同様、最近私も、「ファッションの楽しさ」「ファッションを楽しく」ということを毎日考えています。
商品やVMDの研究プラス、心理学(お客様の購買心理)みたいなものの追求が求められる時代かもしれませんね。
投稿: 両国さくら | 2009年11月11日 (水) 23時45分
いつもお世話になってます。
さくらさんの「ファッションって、単なる物的価値以上の、精神的価値を売るものだと思う」
と言う言葉など、まさしく思っていたことを代弁してもらった感じです。
そして企業努力等も必要だとは思うのですが、もう一つ、自分達消費者も物の良し悪しを見極める目が失われつつあるように思うんですよね。
物の良し悪しがわからないから安い物でも納得してしまう…という部分もあるのかもしれないと思っています。
投稿: Alceste | 2009年11月12日 (木) 04時16分
そうなんですよね、粗製乱造の服しか着ていないと、そうなってくるのは否めないかも。将来が心配ですよね。
投稿: 両国さくら | 2009年11月12日 (木) 07時35分