ヤンフードン(楊福東)「将軍的微笑」@原美術館を見に行ってきました
さて、年末から楽しみにしていた、中国の映像作家・ヤンフードン(楊福東)氏の個展「将軍的微笑」を、本日やっと見にいくことが出来ました。
会場は品川区にある原美術館。現代美術をテーマにしている小さな美術館ですが、高級住宅街や大使館の側という雰囲気のあるロケーションで、中庭には常設の作品も配置され、ゆったりと散歩しながら季節感を感じることが出来る素敵な場所でした。
作品は全部で5点しかなかったのですが、映像作品なので全部見るのにはかなり時間がかかります。特に、「竹林の七賢人」は1時間弱の大作で、しかも、今、ネットで知った情報によると、「3」と表示されていたのは「パート3」の意味で、本当は全部でパート5まであってまだまだ長尺の作品だったみたいですね。
会場に入ってすぐに思ったんですが、ばっくりいって来場者の約半数が結構早く暗室から退出されていたので、「ひょっとしてあまり面白くないとお感じなんだろうか」と・・・。
自宅に帰ってこれまでご覧になられた方々が感想をブログにアップしておられるのを見ると、やはり、かなり「ぴんとこなかった」という感想があったので、「やはりな」という風に納得致しました。
作品の根底には、いずれも、「過去との対話」「急速な時間の流れ」というのが色濃く存在するように私は感じたんですが、その辺が、同じ時代を生きていても、日本人と中国人では全く異なるんですよね。
本展覧会のテーマになっているインスタレーション「将軍的微笑」の中で、主人公の「将軍」(目の見えない恐らく沿岸地域で今はそれなりに豊かになっている農村の老人)が、「70年代や80年代は家にテレビがないのは当たり前だった。でも、今は、どの家にも大型テレビがある」と述懐していましたが、
90年代以降の20年間の間に、急速に経済発展をとげ、現在もなお発展中の中国にとっては、
日本の昭和30年代くらいの状況は、「まだ記憶に新しい過去」なんだろうと思います。
そういう、「記憶に新しい過去」と「現代」をクロスオーバーさせながら、時には夢幻的に、時にはシュールレアリスティックに映像美を描き出していくのが、ヤン氏の作風のように感じました。この方の美意識の高さは、本当にグローバルに認知されているだけのことがございますね。
「竹林の七賢人」では、冒頭とラストの部分で、棚田の耕作には欠かせない存在であり、生活と労働を共にしてきた牛を屠殺するシーンがございましたが、
昔の日本もそうだったんですが恐らく中国でも農村部では珍しくない出来事で、ダミアン・ハーストの輪切りにされた牛とは相当に異なる位相にあるように感じました。
たぶん、現代の中国人がこの映像を見たときの反応は、地域や世代によって格差はあるものの、たぶん、淡々と受け止められる「日常」(もしくは「つい昨日の日常」)なのではないかと思うんですよね。
(ただ、ラストの少し前に、白いハリボテの牛を田んぼに運んで皆で火を付けるシーンがあって、この行動が「賢人」=インテリ的なんですが)。
順番的には、「竹林の七賢人」が4番目に配置されていましたが(たぶん一番長い映像だったからだと思うんですが)、こちらを先に見てから「将軍的微笑」を見ると、主人公の老人の「微笑」が何故沸き起こってくるのか=幸福感が実感出来るのではないかと思います。
5本の映像以外に、もう1つ、ヤンフードン氏へのインタビュー映像もあったんですが、こちらも非常に面白かったです。「芸術は政治にコミットすべきだと思うか」といった趣旨の質問に対して、「芸術は政治に必ずしも関わらなくてもよい」という風に答えておられましたが、この回答には、ヤン氏のスタンスが非常によく現れているように思います。
そう遠くない過去の中国に関しても、現代の中国に関しても、うす明るい肯定感をぼんやりと抱えてたゆたっている・・・その辺が、既に政治的激動の時代を抜けた時点からスタートしている新世代のアーティストらしいところだろうという気が致しました。
中国によく行っておられる方がご覧になられると、2000年の上海の街の風景とか、2005年くらいに撮られた作品の空気感が、2010年の今の中国とは相当に違うということがものすごく実感出来ると思いますので、「なつかしい」という感じで面白くご覧頂けるのではないかと思います。私は2001年頃から年1、2度くらいのペースでしか上海や中国には行っていませんが、それでもすごく面白かったです。
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