優しく華やぎのある器ールーシー・リー展
昨日へプレイ・バック、ということで、昨日5月5日(水)に見たルーシー・リー展(会場:国立新美術館)の感想です。
ピンクや青といった、美しい色使い、細い線が細かく刻まれた文様、そして、薄く、開口部が大きく、高台が高い独特のフォルムの器は、一目見ただけで忘れられず、
あんな風に優しく、華やぎのある器が、どのような作家の手によって生み出されたのか、もっともっと沢山の作品を見てみたいという思いに駆られていました。
今回の展覧会では、ウィーン出身のユダヤ人女流陶芸家、ルーシー・リー氏の作品を250点以上展示した大掛かりなもので、
彼女の作品を、年代別に3期に分け、デザインのスタイルや技法別にわかりやすくグルーピングして見せてありました。
一.初期(ウィーン時代、1921年〜38年)
1)ウィーン工房
2)前熔岩釉
3)バウハウス
ニ.形成期(ロンドンに移住してから、1939年〜1966年)
1)掻き落としの系譜
2)器形のヴァリエーション
3)釉薬の変貌
三.円熟期(1967年以降)
形成期の技術をベースにした沢山の作品が展示されている
この展覧会、実は、ファッション業界の方にとっても興味深いコーナーがございまして、
ルーシー・リーさんは、社会的評価がまだ定まらなかった1940年代頃、ボタンを沢山作っておられたそうなんです。
そのボタンも、非常に数多く、展示されております。
ひとつひとつが、大ぶりで、陶器やガラスの温かみがあって、本当に宝物のようにきれいです。
彼女のボタンのスケッチも一緒に置かれていて、上から見た絵だけでなく、側面図も描かれていたり、素材を指示しておられる几帳面なメモが、陶芸家さんらしいなと思って、感心いたしました。
あと、これから展覧会に行かれる方には、お時間が許すようでしたら、是非デヴィット・アッテンボロー氏が本人の工房で彼女にインタビューした映像をご覧になってみてください(20分です)。
自らの手やナイフを使い、ろくろを回しながら作品の形を作っておられる様子には、感動を覚えると思います。
それと、彼女の人柄が伺えるなと思ったのは、
長年工房を共有していた、自分よりも10歳以上も年下の作家、ハンス・コパー氏のことを、「彼は私の良きアドバイザーだった」と言う反面、「私は途中から彼には何も言わなくなったわ。だって彼の作品はパーフェクトなんですもの」と述懐していた部分です。
「I am OK, You are OK.」・・・こういう優しい心の持ち主だったからこそ、際立った個性と才能があるが故に陶芸界からスポイルされかねない状況だったルーシー氏が、徐々に周りに支持されるようになっていき、ついに晩年には、高い地位と名声を得るようになったんだろうなという風に思いました。
「思想性のない作家」、そういう見方もあり得るんでしょうが、
実は、彼女個人の個性の裏側には、近代から現代へ、急速な変遷を遂げた激動の時代の空気感が、裏返しの形で強く滲んでいるのではないかと私は思うのです。
第2次世界大戦前、戦中、戦後と、一環して、一輪の優しい花のような器を作り続けたルーシー氏。その生き方と作品は、時を経た今もなお、私達に、人生に必要な「彩り」「味わい」を教えてくれています。
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