これら3冊は、続けて読むと、面白いと思います。
『リバース・イノベーション』と、『メイカーズ』は、ある意味、真逆な本です。真逆というか、発展途上国への生産の移転→市場としての発展及び先進国の工業生産の空洞化という、今という時代に進行中である一連の事象を別の角度から眺めたもので、実は本質は1つ、「流れに逆らわず、それぞれの立ち位置で流れに乗れ」ということなのだろうと思います。
『リバース・イノベーション』は、大企業、中堅企業向けの本で、大手がその地位を将来に亘っても維持しようと思うならば、新興国から登場する競合に打ち勝つ必要がある。そのためには、新興国の市場を知り、価格や商品の形態・機能などを新興国にマッチするものにして市場に参入する必要がある、という趣旨の本です。
ファッションビジネスの場合は、アイテムにもよりますが、そのブランドを所有し身につけることがステイタスの証明になる、似合うか似合わないかは二の次、という価値観を広告プロモーション、ストアVMD、高品位なサービスで徹底して植え付ける=ブランディングによって、「価格もMD(商品政策)も変えずに参入」ということが確かに可能な部分もあるのですが、
大きな市場を取ろうと思えば、現地化は欠かせず、現状では日系の企業で現地化がうまくいっているブランドが非常に少ないように思われるのが気にかかるところです。
『メイカーズ』は逆に、新興国への生産の移転によって空洞化した先進国の製造業の再生の鍵になるのが、パソコンを活用した起業家によるDIYデザインであり、そのデザインを容易に商品化することが可能な3Dプリンタやオープンハードウェアの仕組みであると説いた本です。
そして、新しいタイプのものづくりを押し進めるメイカーズ(ものづくり起業家)達の成長を支える資金調達の方法の一つとして、クラウドファンディング(ネット上での小口資金調達)が登場し活用されています。
クラウドファンディングとメイカーズ革命の関連性については、先日私のブログでもご紹介させて頂きましたが、
2月20日(水)夜に国際ファッションセンター(株)で開催いたします
KFCネットマーケティングセミナーの講師のお一人として、日本における有力クラウドファンディングサイトの1つ「CAMPFIRE」の社長・(株)ハイパーインターネッツの石田光平氏をお招きしておりますので、石田社長の方からもご解説頂けると思います。
ご興味のある方はぜひお越し下さい。
『メイカーズ』的な発想とビジネスモデルの誕生は、アメリカ的だなという風に私は思ってこの本を読ませて頂きました。日本の製造業の場合、東京大学の藤本隆宏教授が指摘するように、
ものづくりの手法が単純ではない(藤本氏の用語を借りれば、「擦り合わせ型」)ので、あくまでもメインストリームは既存の大手企業と中小企業による複雑で高付加価値なものづくりということになるのでしょうが、
藤本教授ご自身が日経ビジネスに『メイカーズ』に関して書いておられたご意見に私も全く同感で、それを補完するものとしての「メイカーズムーブメント」というのは、大いにありだと思います。
そして、そういうものが大いに起こりうる、と思わせてくれるのが、三番目に上げた本『ニコニコ学会βを研究してみた』なんですよね!
この本、メチャメチャ面白いです。先に上げた2冊ほどメジャーじゃないと思いますが、これを読むと、日本の理系の研究者の方々、そして、普段は企業に勤めている人などいわゆる街の研究家(ニコ動的には“野生の研究者”と称するみたいなんですが)が、アイデア豊富で、本当に面白いことを考えたり作ったりしておられるんだな、ということがわかります。
こういう方々の研究の中で、web上で完結するタイプのものと、物的な形を要するものと両方があるんですが、後者が実際に製造出来て、資金調達出来て、販売出来るという風になっていけば面白いなと。
しかしながら、ここまで書いて来て非常に残念なのは、『メイカーズ』の中に手作り品の販売サイト「エッツィ」について、「エッツィが小企業について本当に役立つプラットフォームかどうかについては、議論の余地がある」とあるように、
ファッションとか、手作りの可愛いグッズのデザインが起業につながる仕組みは、
残念ながらネット発では誕生していないんですよね。
例えば縫製が必要なアイテムが3Dプリンタのように自動生産というのは現状ではあり得ないので、結局、自分なのか他人なのか、誰かの手で生産する、というプロセスがあり、圧倒的な合理化が不可能なことと、
そもそも、機械を発明するような場合と違って、機能面での差別化(従来品と比較した際の優位性)が難しく、いいか悪いかではなく、好きか嫌いかという軸で購買される商品で、量産品と比べて価格を高く設定するといっても自ずと限界があるためだと思います。
しかしながら、私が一番感じているのが、特に日本においてですが、
webの業界で働いている人が余ったエネルギーで自分の好きなものを開発する(そういうエネルギーのことを『ニコニコ学会βを研究してみた』の中では“マッドネス”と呼んでいますが)、
ファッションの業界では、企業に勤めていて、生地や服飾資材の仕入れ先、生産背景を熟知しているプロが、余った時間に自分の作りたい物を作って売る、なんてゆとりは全くない(どころか、企業に属しているうちにどんどん疲れてすり減って行く)ような実態があるのが問題なんじゃないかと。
異論もあるかもしれませんが、そんな風に感じています。
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